当協会は、1974年に保険医の生活と権利を守るとともに、医療の充実と向上をはかることを目的として設立され、県内の開業医と勤務医の医師・歯科医師約700名が任意で加入し、政治・思想にとらわれない純粋な活動を一貫してすすめております。
協会は設立以来、医療の諸矛盾の根源となっている不合理な診療報酬の抜本的改善の運動を推進しています。
2025年 年頭のご挨拶
明けましておめでとうございます。穏やかなお正月をお迎えのこととお喜び申し上げます。
内外を見渡しますと、世界は前世紀にもまして戦争の時代が続くのかと落胆と義憤を抑えきれないニュースが続いています。ガザやウクライナでの戦争は解決の糸口すら見えてきません。当たり前の日常を取り戻せる平和な時代に一刻も早くなってほしいものです。また、国内をみると一年前の能登地震からの復旧がなぜこんなにも進まないのでしょうか。地方切り捨ての意図が見え隠れし、国の政治姿勢に大きな不信がつのります。
昨年10月の衆院選では自民と公明の与党が議席を大幅に減らし、過半数を割りました。裏金問題に対する国民の批判は与党の予想を大きく上回りました。24年診療報酬改定では「診療所狙い撃ち」と批判の強かった改定内容で内科系診療所を中心に経営的に難しい状況に追い込まれました。マイナス改定の一方で政府が進める医療DXでは電子処方箋の導入促進、電子カルテ情報の共有サービスの整備などが進められようとしており、将来的な診療継続への不安で、高齢化が進む医師・歯科医師の廃業など地域に及ぼす影響が深刻化しつつあります。今、医療・介護などへの国民の関心と不安の声は大きくなり、それを少数与党の国政に反映させる条件は広がったのではないでしょうか。
保険医協会・保団連の「保険証残せ!」運動は多くの国民から歓迎されました。世論の反対を一顧だにせず、公金を湯水のごとく投下してマイナ保険証をなりふり構わず突き進めた与党の過半数割れは当然です。12月中旬に山梨県保険医協会が医療現場の実態を調査しています。(調査期間:12月13日~12月20日、回答数:75医療機関、回答率:27.3%)マイナ保険証についてメリットは?の質問に メリットを感じる:18.7%、感じない:37.3%、どちらともいえない:42.7%。保険証について復活を望む:66.7%、復活を望まない:5.3%、どちらともいえない:26.7%で全体の66.7%が従来の保険証の復活を望んでいます。おそらく全国の状況も同様でしょう。「保険証を残せ!」運動は引き続き求められています。現行保険証で受診出来ることの周知、資格確認書の全面交付(自動交付)、マイナ保険証登録済みの方の解除方法など正確な情報の発信が必要です。諦めずに運動を続けましょう。
ところで、気になる社会現象があります。その典型は「カオスと狂乱の兵庫」と一部で評された兵庫県知事選です。知事の違法行為の告発に端を発し、県議会が全会一致の不信任決議を上げた、その知事が出直し選挙に再出馬し、SNSでの大量拡散で予測を遙かに超える圧勝を果たしたことです。偽情報の爆発的拡散が道理を踏みにじったこと、80年以上前の「いつか来た道」現代版でないことを祈りたいものです。
本年も会員諸先生の御協力と御指導をあらためてお願い申し上げ、年頭の挨拶といたします。
会長 草彅芳明
開業医宣言(全国保険医団体連合会が1989年に決め、1998年に修正した、これからの医療をより良くする決意をあらわすものです)
わが国の開業医は第一線の医療の担い手として、長年にわたり地域住民の医療に貢献してきた。
いま、日本人の平均寿命は大きく延びてきたが、一方、国民生活をとりまく経済、労働、環境などの急激な変化とその歪みは、成人病の増加はもとよりかつては見られなかった心身の疾患をも生み出し、子供から老人に至るまですべての世代を通じて、健康に対する関心と不安が増大している。
こうした中で開業医師、歯科医師のあり方も問い直され、日常の診療に責任を持つことはもとより、疾病の予防から環境の改善に至るまでその専門的知識、技術による幅広い対応がつよく求められている。
同時に近代民主主義の主権在民、人権尊重の思想は、医療における人間関係、医学の進歩と医療の倫理など新しい課題をも提起している。
これらの期待と要望に応えるためには、患者・住民のもとめるところを深く理解し、常に新しい医学・医術を研鑽して、自らの医療生活を省み創造する開業医の姿勢と努力が不可欠である。
また、わが国は「経済大国」といわれながら、その力が国民には還元されず、逆に国民の努力により築き上げてきた社会保障が、軍事予算拡大やいわゆる「民活路線」の陰で次々に後退させられている。さらに現在、地球的規模での環境破壊や核兵器の脅威など、人類の生存すら危ぶまれる状況も存在している。
私たちはこれらの現実に立ち向かいつつ、21世紀の医療を担う開業医像をめざして、次の通り宣言する。
1.全人的医療
私たちは個々の疾患を重視するのみならず、患者の心身の状態、家族、生活環境にも気を配り、全人的医療に努力する。
2.対話の重視
医療は患者と医師の信頼にもとづく共同の行為である。
患者の立場を尊重した対話によって、患者自らが最良の選択を行えるよう、医師は患者に必要な情報や専門的知識、技術を提供する。
3.地域医療
私たちは住民の身近な存在として、日常診療に責任を持つと同時に、地域の保健、予防リハビリテーション、福祉、環境、公害問題等についても積極的な役割を果たす。
4.医療機関等の連携
私たちは最も適切な医療を行うため、診療機能の交流等を通じ他の医師、医療機関等との円滑な連携に努める。同時に他の医療・福祉従事者の役割を重視し、患者を中心とした緊密な協力関係を保つよう努力する。
5.診療の記録
診療の正確な記録は医師の重要な責務である。
療養等に必要な情報の提供に日常的に努めるとともに、患者からの診療情報提供の求めに誠実に応ずる。
診療情報の提供に際しては、医師の守秘義務を遵守し、患者の秘密と人権を守る。
6.生涯研修
私たちは患者、住民が最高の医学的成果を受けられるように常に医学・医術および周辺学術の自主的な研鑽に努め、第一線医療・医学の創造、実践、発展をめざす。
7.自浄努力
私たちは、患者や地域住民の信頼を失うような医療行為を厳に戒める。
また常に他の批判に耐える医療を心がけ、医療内容の自己および相互検討を行うよう努力する。
8.社会保障
医療を資本の利潤追求の市場に委ねてはならず、すべての国民が十分な医療・福祉を受けられるよう、社会保障を充実することは近代国家の責務である。
私たちは国民とともに社会保障を守り、拡充するため努力する。
9.先端技術の監視
科学技術の急速な発達は人類に多くの恩恵をもたらす一方、その用い方如何によっては生態系の破壊なども懸念される。
私たちは特に人類や地球の未来に影響を与えかねない先端技術に対しては、その動向を監視し、発言する。
10.平和の希求
人命を守る医師はいかなる戦争をも容認できない。
私たちは歴史の教訓に学び、憲法の理念を体して平和を脅かす動きに反対し、核戦争の防止と核兵器廃絶が現代に生きる医師の社会的責任であることを確認する。