当協会は、1974年に保険医の生活と権利を守るとともに、医療の充実と向上をはかることを目的として設立され、県内の開業医と勤務医の医師・歯科医師約700名が任意で加入し、政治・思想にとらわれない純粋な活動を一貫してすすめております。
協会は設立以来、医療の諸矛盾の根源となっている不合理な診療報酬の抜本的改善の運動を推進しています。
2023年 年頭のご挨拶
明けましておめでとうございます。新型コロナ第8波の勢いが止まない中、日々の診療を続けられている会員諸先生に心からの敬意を表します。 昨年は戦争の世紀に逆戻りしたかと思うような1年でした。甚大な命の犠牲とひきかえに戦争に勝利者はないという教訓を過去何度も手にしたはずなのに「いつか来た道」を繰り返す人類の未来に不安を覚えます。医科歯科ともに吹きすさぶ医療界の寒風にも負けるわけには行きません。医療や福祉、暮らしは軍拡とひきかえに長い冬の時代を迎えそうです。
昨年末、当協会も共同開催した映画会「荒野に希望の灯をともす」医師・中村哲 現地活動35年の軌跡 は、参加された方々から感動の声が多数寄せられました。アフガニスタンの不毛の砂漠で病や貧困とたたかい多くの死と向き合うなかで、医療だけでは人々の命は守れない、荒れた大地を緑地化することこそ鍵、と大規模灌漑施設建設に命をかけて奔走し遂に完成させるまでの壮大なドキュメント。中村哲医師の遺した偉大な業績に、あらためて心打たれました。国会審議に参考人として呼ばれた中村先生は「自衛隊派遣は、有害無益。日本の評判を落とす」と証言したのです。軍服を着た人間が行けば必ず嫌われる。これまで築いた信頼関係が一挙に崩れると。アフガンのその後の展開をみれば、彼こそが戦乱の地に必要な援助のあり方の範を示した、日本に期待される平和活動のかたちを世界に知らしめたと思います。
さて、昨夏の参院選や秋の臨時国会では議論を避け、年末に岸田政権が閣議決定した5年間で43兆円の大軍拡予算とその財源が報道されました。平和憲法を持つ日本は今でも世界9位の軍事大国であり、核保有する英仏両国、そしてドイツなどとほぼ同レベルの軍事費です。GDP比2%の大軍拡がされれば、米、中に次ぐ世界3位の超軍事大国になります。この30年賃金が増えない国、非正規労働者が4割を占め、その日の食事にも困る人があふれ、バイト先が無くなって大学を中退せざるをえない若者が続出する、少子化なのに子育ても厳しい国日本。物価高騰で暮らしに困窮する多くの国民を前にして、なぜ大軍拡なのか、政権の暴走としか言いようがありません。戦後長期にわたって確立した平和国家日本のブランドが音を立てて壊されようとしています。今年は「新しい戦前が始まる」とある有名人がつぶやきました。先制攻撃、敵基地攻撃も可能な戦争準備ではなく、戦争させない外交力を発揮すべきです。
このような政治の暴走を目の前にすると、今、医療でごり押しで進められているマイナンバーカードについてもその意図に疑念を抱かざるを得ません。マイナ保険証推進のため現行保険証を2024年秋に廃止するというのです。保険証を人質に皆を従わせるという禁じ手で多くの会員から反対の声が上がっています。個人情報の集積とその利用に不安を覚えるのは当然の結果でしょう。
こんな政治にみんなの声はただ一つ。『コロナで大変なのに、それだば、なんと、おがでねか?!』 本年も会員諸先生の御協力と御指導をあらためてお願い申し上げまして年頭の挨拶といたします。
会長 草彅芳明
開業医宣言(全国保険医団体連合会が1989年に決め、1998年に修正した、これからの医療をより良くする決意をあらわすものです)
わが国の開業医は第一線の医療の担い手として、長年にわたり地域住民の医療に貢献してきた。
いま、日本人の平均寿命は大きく延びてきたが、一方、国民生活をとりまく経済、労働、環境などの急激な変化とその歪みは、成人病の増加はもとよりかつては見られなかった心身の疾患をも生み出し、子供から老人に至るまですべての世代を通じて、健康に対する関心と不安が増大している。
こうした中で開業医師、歯科医師のあり方も問い直され、日常の診療に責任を持つことはもとより、疾病の予防から環境の改善に至るまでその専門的知識、技術による幅広い対応がつよく求められている。
同時に近代民主主義の主権在民、人権尊重の思想は、医療における人間関係、医学の進歩と医療の倫理など新しい課題をも提起している。
これらの期待と要望に応えるためには、患者・住民のもとめるところを深く理解し、常に新しい医学・医術を研鑽して、自らの医療生活を省み創造する開業医の姿勢と努力が不可欠である。
また、わが国は「経済大国」といわれながら、その力が国民には還元されず、逆に国民の努力により築き上げてきた社会保障が、軍事予算拡大やいわゆる「民活路線」の陰で次々に後退させられている。さらに現在、地球的規模での環境破壊や核兵器の脅威など、人類の生存すら危ぶまれる状況も存在している。
私たちはこれらの現実に立ち向かいつつ、21世紀の医療を担う開業医像をめざして、次の通り宣言する。
1.全人的医療
私たちは個々の疾患を重視するのみならず、患者の心身の状態、家族、生活環境にも気を配り、全人的医療に努力する。
2.対話の重視
医療は患者と医師の信頼にもとづく共同の行為である。
患者の立場を尊重した対話によって、患者自らが最良の選択を行えるよう、医師は患者に必要な情報や専門的知識、技術を提供する。
3.地域医療
私たちは住民の身近な存在として、日常診療に責任を持つと同時に、地域の保健、予防リハビリテーション、福祉、環境、公害問題等についても積極的な役割を果たす。
4.医療機関等の連携
私たちは最も適切な医療を行うため、診療機能の交流等を通じ他の医師、医療機関等との円滑な連携に努める。同時に他の医療・福祉従事者の役割を重視し、患者を中心とした緊密な協力関係を保つよう努力する。
5.診療の記録
診療の正確な記録は医師の重要な責務である。
療養等に必要な情報の提供に日常的に努めるとともに、患者からの診療情報提供の求めに誠実に応ずる。
診療情報の提供に際しては、医師の守秘義務を遵守し、患者の秘密と人権を守る。
6.生涯研修
私たちは患者、住民が最高の医学的成果を受けられるように常に医学・医術および周辺学術の自主的な研鑽に努め、第一線医療・医学の創造、実践、発展をめざす。
7.自浄努力
私たちは、患者や地域住民の信頼を失うような医療行為を厳に戒める。
また常に他の批判に耐える医療を心がけ、医療内容の自己および相互検討を行うよう努力する。
8.社会保障
医療を資本の利潤追求の市場に委ねてはならず、すべての国民が十分な医療・福祉を受けられるよう、社会保障を充実することは近代国家の責務である。
私たちは国民とともに社会保障を守り、拡充するため努力する。
9.先端技術の監視
科学技術の急速な発達は人類に多くの恩恵をもたらす一方、その用い方如何によっては生態系の破壊なども懸念される。
私たちは特に人類や地球の未来に影響を与えかねない先端技術に対しては、その動向を監視し、発言する。
10.平和の希求
人命を守る医師はいかなる戦争をも容認できない。
私たちは歴史の教訓に学び、憲法の理念を体して平和を脅かす動きに反対し、核戦争の防止と核兵器廃絶が現代に生きる医師の社会的責任であることを確認する。